エッセイ

アルコールリバウンド【~禁酒の弊害~】

禁酒をして1か月。

もう飲みたいという気持ちもなくなってきたところでありました。

これで私はアルコール依存症というものからようやく解放されたものだと思っていたのです。

しかしそんな幻想は打ち砕かれるのであります。

 

週末、私はアルコールを欲していたわけではありません。

ただ、これだけ禁酒したのだからなんとなく飲んでみようと思ったのです。

禁酒後に今まで飲んでいたハイボールがおいしく感じるのか、

人類が地球に住んでればいいものをわざざわ月に行ってみたくなる。このような好奇心と同じでしょうか?

私はそれを試してみたくなったのです。

ニール・アームストロングのごとく私はマイバスケットに駆け込みました。

店内のまっすぐ歩き、突き当りを右に曲がり10mほどいったところに焼酎ハイボールちゃんが待っておりました。

他の缶と一線を画す凹凸と金色のパッケージ。

それは夏のビーチで

今が旬よ!私の身体をみなさい!と言わんばかりに胸やお尻をブリンブリンさせている黒ギャルのようでした。

「おいしいですよ?」

「試したくないの?」

「いや、ちょっとおつまみを詮索してからにするよ!」

ロング缶が私に語り掛けてき、それに私も返しておりました。

なんということでしょう。私は1か月間禁酒しているのにも関わらず、焼酎ハイボールと会話ができるようになっていたのです。

恐ろしいことです。うっかりしておりました。

私は完全にアルコール依存症から立ち直ったものだと思っていたのですから…

 

まんまと美女の誘惑に負けた私はレジに並んでおりました。

私御用達のマイバスケットの不便なところはアルコールに関して「有人レジでなければ会計ができない」ことです。

否が応でもレジの列にお並び、意識せずとも前に並んでいる人の買い物かごを除いてしまします。

「くそめ。ショート缶なんか買いやがって!!」

もはや私は350mlのショート缶を購入しようとする人間をみると苛立ちさえ覚える時期もありました。

これはいけません。ショート缶を買おうと、ロング缶を買おうとそれは自由なのですから。

人々に与えられた権利であり、主張です。

主張?

ちょっとまってください。ここでふとした疑問が浮かび上がりました。

もしかすると毎回ロング缶を購入していた私はレジの人間に

「おれはロング缶しか飲まないんだ!!すげえだろ!!酒が強いんだ!!」

などどアピールしていると思われているのでは?

もしくは、

「こいついつもロング缶を2本買っていくなあ。お酒に逃げて現実を見つめないやつめ!!」

こんな風に思われているのかも。。。

そんな被害妄想をしていましたが、美女の誘惑には勝てません。

あきらめて購入し、私はマイバスケットを後にしたのです。

 

そして戸を開け、袋をそっとテーブルに置いた私は、キンキンに冷えた妖艶な美女を2人テーブルの上に綺麗に並べました。

なぜでしょうか。いつもより魅力的に映るのは。1か月間会えなかったからかもしれません。

 

プルタブをこれほど意識するこがあったでしょうか。

「今自分は焼酎ハイボールを開けようとしている」

「プシュ」

 

音が鳴る。

開いている。

 

コクリ。(唾をのむ音)

 

では味見させていただきます。

 

 

チュ。

 

口内では炭酸という名の羞恥心が抵抗しているにも関わらず、

食道を通る頃には私に身を預けてしまう。

 

いやもいやよもすきのうち…

 

 

 

深い。

 

 

 

けしからん。

 

 

 

 

そんな味わいは一瞬のこと。

私は次々と悪魔の液体を飲み干してしまいました。

 

「チュルルルルルル…」(缶をゆする音)

 

いくらロング缶をゆすってももうそこには誰もいません。

あーまたやってしまったのか。そう思いました。

 

ただいつもと違うことがありました。

私は全然酔えていなかったのです。

こりゃまいった。本来であれば禁酒していた分、

いつもより酔いが回って後悔。

というオチでした。

 

当たり前ですが、私は禁酒をし健康になっていたのです。

今まではアルコールによって肝機能が弱っていた為、ロング缶2本ですんでおりました。

今日の私は以前の私ではありません。

酔えないのです。

そこでまた美女がささやいてくるのです。

 

「もっといい思いしない~?」とね。

 

脳が私にロング缶をもう1本買いに行け!という指示を出してきます。

 

「はやくしないと店が閉まっちまうぜ?

どうするよ?マイバスケットは11時までだ。そのあとはどんだけ泣き言いったってシャッターはあかねえ!」

 

「やめるんだ!そんなことはわかってる!!」

 

「じゃあどうすんだ?もう10時半を過ぎてる!」

 

「そうだな。いくか。なんてったって今日は禁酒解禁日なんだから…」

 

「それでこそおいらのブラザー!!」

 

私のブラザー(弟)はいつも欲望に負けてしまうのです。

どれだけ飲んでしまったのか。その後の記憶はありません。

 

次の日の朝、まず身体が教えてくれました。

骨の節々がピキピキと旋律を奏でており、脳もそれに共鳴しドガドガと太鼓のような音を立てておりました。

 

 

「気のせいだ。気のせいだ。気のせいっちゃぴん♪」

「おいらはシラフぅ~~!♪」

などと歌って昨日の過ちをごまかそうとしましたが、そう簡単にはいきません。

 

自作のお歌を歌いながらお花畑の扉を開けると

「カラカラカラ~」

というではありませんか。

 

「だれだ!!!!!!!」

私は大きな声で叫びました。

 

しかし誰も答えてはくれません。

「今の音はなんだ!カラカラカって!私の歌をあざ笑ったような音だったぞ!!」

 

さあ、短気な芯がソングライターを演じるのはもう終わりです。

 

 

床に転がっているロング缶たちを見て現実を知るのでした。

 

 

ブログ村

-エッセイ
-,

© 2024 GINGER.COM Powered by AFFINGER5