エッセイ

めずらしい形の勧誘

一人暮らしを始めて5年ほどが経った。

もちろん営業や勧誘なども来ることがある。

平日の正午、インターホンが鳴った。

郵便物もしくは営業だろうと思い玄関に向かう。

「何か悩みはありませんか?」

ドアを開けると黒い法被をきた男が経っていた。黒縁メガネをかけている。

安アパートに住んでいるとインターホン越しに相手の顔が見えないのが難点である。

出ないという選択肢がとりにくい、それもあってか営業や勧誘も話を聞いてもらいやすいのだろう。

「いや、大丈夫です。」

「そうですか。5分ほどでもお時間いただければ嬉しいのですが。」

なんの勧誘なのか言っていたような聞き取れていなかったが、おそらく宗教のようなものだと思う。

感情がない男の目。表情は豊かなのにどこか心がないような気がしてしまう。

何も感じないように「心」というカートリッジを取り外しているような温度の感じない声色だった。

よく目が笑ってない。などというがなぜ人間はそういうものを感じるのか不思議だ。

どれだけ笑顔を取り繕っても目に心が写し出せれているような感覚を誰もが感じる。人間に備わった機能。

昔の人は目は口ほどにものをいうといったがあながち間違っていないのだろうと今までの経験で感じている。

そういえば祖父も似たようなことを言っていた。「目で悪いやつかどうかわかる。」と。

自分の祖父は刑務官だった。多くの囚人を相手にしており彼らには目に共通する特徴があるらしい。

言語化はできてないようだったが。

そんな祖父のいう悪いやつかもしれない男に少し隙を与えてしまった。

いつもなら間髪入れず断りを入れるのだが、男のいで立ちが変わっていたこと。

そして左手に男と同じ法被を着た女が経っていたこと。

女と一瞬目が合ったが少し後ろめたそうにうつむいた。

自分の行いについて完全に吹っ切れていないのかもしれない。

 

いやそれよりも気になったことがある。

その女のそばに子供がいたことだ。

ベビーカーに小さな赤んぼうが乗っている。

こういった勧誘に子供を連れてくるとは斬新である。

彼らは夫婦なのだろうか。

もし仮に彼らの子供ならやっぱり思想は強要されるのだろうか。。。

保育所に預けたり、ベビーシッターに頼ったりできないくらい困窮しているのだろうか。。。

僕が入信すれば彼らにいくらかバックが入るのだろうか。。。

それだけで子供の為になるなら。。。

なんてきれいごとを考えている間に男の話は終わっていた。

僕はそっと扉を閉めて胸に手を当てる。

もうすぐ夏だなあ。

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