エッセイ

転がる死体

家族のラインに連絡が来た。

母「おじいちゃんが死んだよ。心筋梗塞やって。お通夜とお葬式の日にちは追って連絡します。」

 

8時間後。
母「従姉妹のまりんちゃんが来てたからお小遣いあげようとしたら、おばあちゃんが『そんなことしたらあんたの子供にもやらなあかんやないの!』とか言うからお母さんブチギレました。あんなこと言われたら、わざわざ東京から子供達呼ぶ必要もないと思ったよ。なのでお葬式は来なくて大丈夫です。」

3時間後。
母「おじいちゃん最後やし、みんなに来てほしいと思うから、やっぱりお葬式は来てください。」

 

お家芸の内輪揉めが終わり、祖父の葬儀に参加することになった。

 

 

「ほんまにお金に執着する人やったわ。」

「女癖も悪かった。」

「でも頭はよかった。」

 

親戚界隈では《でも頭はよかった》というオチを付ければ、なにを言っても大丈夫という暗黙の了解があるらしい。

そしてこんなにも葬式で悪口を言われる人間は珍しい。

 

最後のお別れとなり、親戚一同で祖父の顔を除く。

血色が悪く、鼻から血が出ている。

それを見て葬儀屋の質が悪そうだと思った。

隣で従姉妹のまりんちゃんが号泣している。結局、母からお小遣いはもらえたのだろうか。

 

棺が担架のようなもので霊柩車に運ばれていく。

 

「ガコンッ! 」

 

その瞬間、棺が落ちて中から祖父の死体が飛び出した。

 

「いやああぁぁー!!! 」

 

祖母が悲鳴をあげる。

 

 

祖父の死体が床に転がり、体から溢れ出たスープがコンクリート一面に広がってゆく。

 

葬儀屋の何人かが慌てて死体に近寄ってきた。

複数の生きている人間が死んでいる人間に向かっていくその光景はまさに逆バイオハザード状態だ。

 

「申し訳ございません!! 」

「なんてことするのよぉおー!! 」

 

 

祖母のヒステリックに拍車がかかる。

 

まりんちゃんがワンワン泣いている。

 

祖父の死体は元の棺に戻され、霊柩車に積み込まれた。

 

母がまりんちゃんの肩を抱く。

 

 

「おばちゃん1万円ありがとう。」

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