エッセイ

手羽先の行方

バシャバシャバシャ…

軽く50は入ったピンク色の手羽先。

その手羽先の入ったビニールの口にスーッと包丁の先を入れ、銀色のザルに出す。

手羽先には黒胡椒がすでにびっしりと刷り込まれており、僕はその掛けられた胡椒を水で洗い流していく。

延々に思われるこの時間心地よい。

L字の折り返しは胡椒がたまりやすいので、入念に洗っていく。

仕込みに含まれるこの作業。

どうせ全て洗い流すなら、そもそも胡椒の振られていない手羽先を仕入れればいいのに…と思う一方で

この作業が無くなっても、違う仕込みが舞い込んでくると思うと、

こちらとしては手羽先についた胡椒を洗うだけ。という作業以上に楽な仕込みはないのではないかと思うので、これでいい。

 

3袋洗い終わったところで、綺麗になって生まれ変わった手羽先を交差するようにタッパーに詰めていく。

こう見ていると、手羽先にも愛着がわくし、目や口はないものの、元々「手羽先」という生き物だったのではないかと錯覚してしまう。

ミミズに近い生き物だ。

 

タッパーの3つを焼き場下の冷蔵庫にしまい、残りの5つを揚げ場の下の冷蔵庫にしまう。

これでオープン準備は完璧だ。

 

ガラガラ…

「いらしゃーい!」

サラリーマン風の中年男性3名が店内に入ってきた。

生が3つ。

 

きになるオーダーはいかに…

「枝豆1丁!豚足1丁!刺身盛1丁!…」

 

ごくり…

 

「手羽塩1丁!」

「アイヨー!」

最近焼き場担当になった中国人のリンがタッパーを取り出して、手羽先3本網の上に置いた。

 

僕の可愛い手羽先。

「テバシオイッチョ!」

10分ほどで焼き上がり、かわいこちゃんたちはホールが料理を運ぶ台の上に置かれた。

そこに店長がやったきた。

 

いつもはさっと持っていくが、手羽先をずっと見つめている。

 

「おい、リン。これ、つくりなおして!」

 

「エ、ナニカモンダイアリマシタカ?」

 

「焦げすぎや。」

 

「アイヨーー!」

 

リンはもらったこげた手羽先を何の躊躇もなくゴミ箱に投げ入れる。

 

 

僕の可愛い手羽先ちゃん…

手塩にかけた手羽先ちゃん…

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