エッセイ

散歩の勧め

4月になり、学生、社会人問わず新しい出会いがあるでしょう。

初めまして~から始まり、相手を探りながら会話のきっかけを探す。

これがなかなか難しい。

現代では女子に「彼氏いるの?」とかいうとセクハラになるらしいし、会話のきっかけを探すことも以前より難しくなっている。

そんな中でもコミュニケーションは必ず取らねばならない。

自分的には「今日は天気いいですねえ」とかでいいのだが、

その後に会話が盛り上がることは皆無であるし、人によってはつまらない会話をするなという輩もいる。

 

では一番最適で相手を不快にさせない質問はなんだろうか。

 

僕は「趣味とかあります?」だと思う。

 

職場などで新しい出会いがあると必ず聞かれるし、自分自身も聞いたことはある。

趣味の話は当たり障りがないし、誰でも何かしらあるだろうという安易な考えで多用されているが、僕はこれをきかれるのが苦手だ。

 

僕の趣味はプロ野球観戦しながら酒を飲むことなのだが、

それをいうと必ず「へえそうなんですね」とか人によっては「辛気臭い」「親父臭い」などと言われる始末。

同じ趣味を持っている人間ならもちろん少しは盛り上がるが、家で一人でプロ野球を見ながら飲むやつは意外と少ない。

少し上の世代であれば一定数いるかもしれないが。

しかもまれに同じ趣味を持つ人間にあったとしてもこちらは酒を飲みながら観戦しているので、半分意識がない。

おもしろいという感覚だけが残っており、何回のどこどこで誰が打ったとか、何も覚えていない時もある。

困ったものだ。

 

そこで新しい金のかからない趣味を見つけようと思った。

それが散歩だ。

 

散歩はいい。

無料そして健康にもいい。

30分ぶらぶらするだけでも気持ちがいい。

なんというか脳にいい物質が分泌されてくる。

 

しかし散歩に行くまではハードルがいささか高い。

服装もなんでもいいとはいえ、汗をかくからそれなりの恰好でいくし、

ツッカケでは足が痛くなるし、

えげつない寝ぐせででるとなるとかわいい子とすれ違ったときに、僕の中で一番のかっこいい状態でいたい。

なんだかんだで整えなければならないのだ。

 

腰が重くなるので結局毎日散歩。とはならず

週に2回がいいとこになっている。

 

そして昨日がその2回のうちの1回だった。

前日野球は見たものも、めずらしく酒をのまなかった僕はすこぶる体調がよかった。

すがすがしく散歩に迎えた。

 

わざわざ散歩の為にAmazonで買ったシャカシャカのウインドブレーカー。

そして足にピッタリ張り付く運動靴。

寝ぐせまでは完璧に治せなかったが、寝相がよかったのかさほど癖もなかったのでそのまま外出できる。

 

ドアを開け颯爽と歩く、一番に目に入ってくるのはアパートのゴミ置き場。

生ごみが散乱している。

とても臭かった。

なえた。

しかし、これから僕は散歩でこの不快感も優に超える快感に巡り合える。

 

いつもの散歩コースは近くの公園にまずいってから、

その後、できるだけ車が通らない道をグングン進んでいくのが僕のスタイル。

天気、風、共に良好。

 

すると腰の曲がったおじいさんとすれ違った。

かなり湾曲しているので、頭が垂れ下がりちゃんと前が見えているのか心配になる。

大変だなと思いながら僕はそのおじいさんを横切る。

 

「あの…すみません」

 

湾曲おじいさんに話しかけられた。

 

「はい?」

「あの、道に迷ってしまって。家に帰れないんです」

「はぁ。」

 

早く散歩に行きたかったのでここで聞えないフリをするか迷ったが、僕は性格がいいのでおじいさんの助けになろうと思った。

 

「〇〇2丁目の4番地なんですが」

 

おじいさんは僕が案内するのが当然かのように住所を食い気味に言った。

僕はスマホで住所を調べた。

距離にすると2分。

しかし、これはあくまでグーグルが平均的な人間の歩行速度で計算してものである。

徒歩、車、電車、チャリで行くルートのボタンがそれぞれあるが、おじいさんで計算したものはもちろんない。

それくらい歩く速度が遅そうだ。

 

「ここの道をまっすぐ行って突き当りに中学校があるんで、突き当ったら右にまっすぐですね」

「はあ。」

 

「ありがとう」と言ってそのまま歩き出すと思ったが、おじいさんはなかなか歩き出そうとしない。

待っている。

僕を家まで案内させようとしている。

 

見捨てたい。

 

 

そう思った。

 

でもできなかった。

 

 

 

「案内しましょか?僕暇なんで」

「おー、あなたは神か仏か」

 

 

神と言われて悪い気はしない。

 

 

おじいさんは当然のごとく手を僕に差し出して支えてくれと無言で指図した。

僕はおじいさんの右手を握った。

その握る手はめちゃくちゃ力強かった。

絶対案内させるまで離さへんぞ。という気概を感じ僕は怖くなった。

 

 

おじいさんはずっと商店街の再開発の話をしていた。

ときどき、何を言っているのか分からなかったので適当に相槌をしていたが、

ちゃんとした返答を求める人だったので何度も聞き返した。

 

 

 

結局家まで30分以上かかった。

 

 

おじいさんが下にめっちゃ手を引っ張るので、めちゃめちゃ疲れた。

 

 

こんなにいいことしてるし、宝くじでもあたってくれへんかなとずっと思っていた。

 

 

今日は50メートルも歩いてないけど、これで散歩したということにするか。

と結局その日は僕も家に帰った。

 

 

散歩をするのも大変だ。

 

人生何事も思い通りにいかない。

 

散歩はそんなこともおしえてくれる素晴らしい趣味だ。

ブログ村

-エッセイ
-, ,

© 2024 GINGER.COM Powered by AFFINGER5